独り歩き

京都府立視力障碍者福祉センターへ、4月から入所するお子さんについて、「手引きをお願いできないか」との問い合わせが親御さんから寄せられました。週末には自宅に戻り、日曜の夕方にセンターへ戻る──その行き帰りの支援、特に京阪電車を利用する出町柳駅からセンターまでのサポートを依頼したいとのことでした。

ユニーズではこれまで、白杖や盲導犬を使用して一定の歩行能力を持つ方々を対象に、「ともに楽しむ」という心でサポートしてきました。しかし、Aさんの場合は、これまでずっと手を引かれての歩行だったとのこと。

そこで私たちは、Aさんの将来を見据え、「独り歩き」を目標に掲げ、一定期間のサポートを引き受けることにしました。

視覚障がい者が一人で歩くには、白杖や盲導犬を使う技術に加え、点字ブロックや音響信号機などの環境資源の活用、外界の音や足裏の感覚を頼りにする力、さらに周囲の人から情報を得るためのコミュニケーション能力が必要です。

また、歩行ルートを考えるうえでは、一般的な最短距離が必ずしも適しているとは限りません。人混みをかき分けて進まなければならなかったり、周囲の状況が日々変化したりすることもあります。交差点では、車の流れが一定でなく、赤・青の信号を音だけで判断しにくい場合もあります。

多少遠回りになっても、環境が整ったルートの方が安心して歩けます。同じ道を繰り返し使う場合には、要所から要所までの距離を歩数で把握したり、階段の段数を覚えたりすることで、より自信を持って歩けるようになります。

Aさんはこれまで、主に親御さんに手を引かれて歩いてこられたようで、少し依存的な面も見受けられました。ユニーズへの申し込みも本人からではなく、親御さんが「とにかく安全に送り届けてほしい」と望まれてのものでした。既存の「手引き」のヘルパーを依頼したつもりのところに、ユニーズから「独り歩き」を前提とした提案が届き、戸惑われた様子もありました。

それでも、「独り歩き」を目指さないと関わってもらえないのではないかという危惧もあってか、一定の理解を示していただきました。お父様は何度も本人と一緒に歩く練習をされ、親子の間でも達成感が生まれたようでした。

ただ、それは白杖を使って同じルートを一定の距離進めるようになったという段階であり、基本的な歩行力が身についたとはまだ言えませんでした。

この件について、Aさんと関わった9人のアイヘルパーのうち6人と、本人・親御さんを交え、例会の場で話し合いの機会を持ちました。

アイヘルパーの中には、「今は勉学に集中しようとしている時期なのに、他のことまで求めるのは酷ではないか」との声もありました。私は、「勉学ももちろん大切だが、今、Aさんにもっとも求められているのは、歩行能力を含む生活力とコミュニケーション力ではないか」と考えを述べました。

その翌日、親御さんから「私たち親子のために、皆さんが真剣に考えてくださっていることに驚き、心から感謝しています」というメールが届きました。そして、「早速、京都ライトハウスに連絡し、歩行訓練の手続きを行いました」との報告がありました。

その後、下半期には、歩行訓練士の指導のもと、センターと駅の間を自力で移動できるようになるための訓練を受け、実際に自力で通えるようになりました。

それから数年後、Aさんから「国家試験に合格し、春からは就職が決まりました」と、うれしい知らせが届きました。