5-6. 店主の声

一アイヘル講座受講者の声

私が点字メニューを飲食店に設置する活動をしたいと思ったきっかけは、アイヘル講座の中で聞いた「お店側が責任を持ってお客様を迎えるべきだ」という言葉でした。

私は普段、飲食店で働いており、さまざまなお客様に合わせた接客の難しさを日々感じながら仕事をしています。そのような中でこの言葉に出会い、「改めて、お客様を責任をもって迎えたい」「飲食店はそうあるべきだ」と強く思いました。

「責任を持つ」ということは、視覚障がい者や点字メニューに限ったことではなく、もっと広い意味を持つと思います。ですが私は、この講座を受けたことをきっかけに、まずは自分が働く飲食店の系列店舗に点字メニューを設置したいと考え、上司に提案しました。その際の提案書には、次のような要点をまとめました。

  • 点字メニューを設置している飲食店は、まだ非常に少ないこと
  • 点字メニューを設置することで、視覚障がいのあるお客様を店側が責任をもって迎えることができること
  • 今まで行動範囲が限られていた方々も、安心して来店できるようになる可能性があること
  • 社会貢献につながり、店のイメージアップにもなること

その結果、私が勤務するケーキ店を含め、系列のカフェ4店舗に点字メニューが設置されるようになりました。数件ではありますが、実際に視覚障がいのあるお客様にご来店いただくこともありました。

ある日、中学生くらいの男の子が親御さんと一緒に来店され、「おしゃれなカフェに来られてよかった」と感想をくださったことがありました。また、私の勤務先の店舗では、近所の小学生から「点字ってなに?」と尋ねられたこともありました。

中でも最も印象に残っているのは、車椅子をご利用のお客様からいただいたお言葉です。カフェ店内に段差が少なく、席と席の間や通路が広く取られていることで「使いやすい」と評価していただいたうえに、「何より、点字メニューがあるということがすばらしい」と言っていただきました。「点字メニューを使うかどうかに関係なく、点字メニューがあることで『受け入れている』という姿勢が伝わる」との内容に、深く感動しました。たとえ目が不自由でなくても、点字メニューを通じてこちらの思いが伝わったように感じ、非常に嬉しく思いました。

私は、もっと「点字メニューあります」というステッカーが飲食店に広まれば、これまで来店をためらっていた人も「行ってみようかな」と思えるのではないかと、アイヘルの活動を通じてさらに強く感じるようになりました。これからも、点字メニューの設置を広げていく活動を続けていきたいと思っています。

これまでにも、知人が経営する店などに声をかけたことはありますが、なかなか良い返事はもらえませんでした。店側にもさまざまな事情や考えがあり、こちらの思いを伝えるには勇気がいります。また、設置していただけたとしても、店側の考え方や対応まで立ち入ることはできない部分もあると思います。

それでも、私がこれからも伝え続けたいことは、たとえ点字メニューを使われなくても、「点字メニューが設置されている」ということ自体が、店に受け入れる体制があるというメッセージになるということです。それはつまり、「お店側が責任を持ってお客様を迎える」という姿勢そのものだと考えています。

飲食店に限らず、障がいのある人が少しでも気兼ねなく場所を選び、気軽に行動でき、楽しめる場面が増えていくような社会を目指して、これからも取り組みを続けていきたいと思います。