点字メニューを通して社会に問いかけること

私たちは「点字メニュー」の取り組みを通じて、視覚障がい者をとりまく社会のあり方に問いを投げかけてきました。これは、盲福研にとっても初めての市民運動としての出発点であり、従来の「支援する・される」関係を超え、当事者の権利と主体性をめぐる新たな実践の始まりでもありました。

かつて点字メニューは、点訳ボランティアが個別に作成し、店に「必要があれば使ってください」と預けるものでした。これは、視覚障がい者のニーズに応える有効な手段である一方で、社会の側が「誰がこのサービスを必要としているのか」「それを誰が、どう支えるべきなのか」という根本的な問いに向き合う機会にはなりにくいものでした。

私たちが考えたのは、「点字メニューがあるかどうか」ではなく、「誰がそれを用意し、誰の責任で提供されているのか」ということです。晴眼者には当然のように提供されるメニューが、視覚障がい者には当然ではない――その背景には、障がいを持つ消費者の存在が社会的に認識されていない現実があります。

私たちは点字メニューの設置を、単なるサービスの一環としてではなく、以下の三つの観点から重要な意味をもつものと考えています。

1.点字の市民権

点字は視覚障がい者の「読む権利」を支える文字です。その点字が公共空間やサービス現場で見えること自体が、「この社会に点字を使う人がいる」という認知を広げる第一歩となります。さらに、それは視覚障がい者の情報アクセス権や選ぶ権利の拡大につながります。

2.障害を持つ消費者=コンシューマーという視点

私たちは、視覚障がい者を支援の対象ではなく、一人の「消費者」として位置づけます。商品やサービスを選ぶ自由がそこに保障されて初めて、すべての市民にとって開かれた社会といえるのではないでしょうか。点字メニューは、消費における障害を社会がどう受け止め、どう取り除くかを問う指標でもあります。

3.主体的に選ぶ自由

自分の目で見て、好みに合わせて選ぶ――当たり前の消費行動が、視覚障がい者には困難な場合があります。しかし、点字メニューを通じて「選ぶ権利」が保障されれば、新しい味に出会い、選ぶ楽しさや満足感を得ることができます。それは、単なる利便性ではなく、生活の質にかかわる大切なことです。


こうした視点から、私たちは単に点訳したメニューを提供するだけでなく、「点字メニューの設置を店の社会的責任(CSR)として考えてもらう」というアプローチに踏み出しました。法的義務ではないからこそ、合理的配慮やインクルージョンの理念に基づいて、事業者との対話を重ね、共に「誰にとっても使いやすい」場をつくっていこうとしています。

点字メニューの設置はゴールではなく、視覚障がい者も晴眼者も「同じ客」として受け入れられる社会の入口です。私たちはこの活動を、従来のボランティアにとどまらない市民活動として位置づけ、今後も対話と提案を重ねながら、共に考え、共に変えていく歩みを進めていきます。

以下、具体的な活動内容についてはこちらから

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