点字メニュー設置へのはたらきかけ
点字メニュー設置に向けた私たちの最初の取り組みは、千本北大路、盲学校やライトハウスのある地域から始まりました。
当初は、「視覚障がい者が来店したときに、必要に応じて出してください」と、既存のメニューを借りてきて点訳し、それをお店に届けるという“お試し”のような段階でした。まだ、点字メニューをどのように社会的に位置づけるかという共通の結論には至っていない頃のことです。
やがて私たちは、「点字メニューの設置は、お店の責任において行ってもらうべきだ」という立場に立ち、お店への働きかけを本格化させていきました。
地域の店から百貨店・チェーン店まで
はじめは、視覚障がい者が日常的に利用している店や、会員が顔なじみのお店など、個人営業の飲食店を中心に訪問しました。そこから、百貨店の飲食フロア、駅地下の商業施設、全国チェーンのファミリーレストランへと対象を広げていきました。
たとえば、京都の中心地・河原町三条から四条にかけては、飲食店の多いエリアとして、まちあるきの一環で店舗を一軒一軒訪ねて点字メニュー設置を呼びかける「ローラー作戦」を実施。また、観光案内マップに掲載されていた約90店舗を抽出し、「点字メニュー設置にご協力ください」と記した往復はがきを郵送するなど、複数の手段を組み合わせてアプローチを行いました。
さまざまな反応と向き合って
百貨店では「各店舗の判断に任せています」「他の百貨店ではどうされていますか?」といった応対があり、責任の所在が曖昧なことも少なくありませんでした。一方、あるチェーン店の店長さんは、本店には問い合わせず、自らの判断とポケットマネーで協力してくださるといったケースもありました。
郵送した往復はがきに「協力する」と返事をくださったのは数件にとどまりましたが、小説にも出て来る京料理のお店からの連絡もありました。
全体を振り返ると、そのお店の窓口として応対してくださった方の姿勢によって、対応には大きな差がありました。その場限りの対応にとどまることもあれば、真摯に話を受け止め、全国の系列店に話を通そうとしてくれた方もいました。
会員の心に揺れる気持ちも
この運動を進めるなかで、点訳には参加できるけれど、お金がかかるとはいえ「有料での設置をお願いする交渉までは踏み出せない」と感じる会員もいました。「支援する側」と「支援される側」の境界を問い直すこの運動は、理念と現実のはざまで、私たち自身にも多くの気づきと問いをもたらしました。
私たちはこれからも、点字メニューの設置を一過性のボランティア活動ではなく、社会のあり方そのものを問う市民活動として位置づけ、対話を重ねながら、誰もが当たり前に利用できるお店の風景を広げていきたいと考えています。