盲導犬事業の在り方

視覚障がい者の行動の自由を保障するための盲導犬

盲導犬ユーザーは視覚障がい者のなかでもごく少数ですが、「盲導犬を使う人」というだけで、ひとくくりに見られがちです。個々に異なる背景や考え方があるにもかかわらず、社会からは「盲導犬ユーザー」という一つの象徴として見られることも多く、常に大きな責任を背負っています。

機能的な障がいについては、それぞれの当事者が自分なりに受け入れ、日々対応していくものです。しかし、社会の側に起因するバリアや不自由さ(=ハンディキャップ)は、社会を構成する市民一人ひとりの課題として、当事者だけでなく共に解決に向かう姿勢が必要です。つまり、障がいのある人にすべてを委ねるのではなく、社会全体で環境を整えていくべきなのです。

視覚障がい者にとって「自由に移動すること」は多くの制約を受けています。その制限を補う手段のひとつが盲導犬との歩行です。とはいえ、現在日本において盲導犬を使用している人はごくわずかで、大多数は白杖や人の介助に頼って生活しています。

あるリハビリテーション関連の書籍の中に「コンシューマー(consumer)」という言葉の説明がありました。これは、従来「受給者(recipient)」「利用者(user)」「クライエント(client)」などと呼ばれてきたサービス利用者を、より能動的な存在として捉え直す概念です。

コンシューマーの考え方は、リハビリテーションや福祉の分野において、次のような視点を重視します:

  1. 利用者がサービスを選択するために、十分で詳細な情報が提供されていること
  2. サービスの選択肢が広く確保されていること
  3. 公的な記録に、利用者自身の考えや視点が反映されていること
  4. サービスの計画・実施のプロセスに、利用者が積極的に参加していること
  5. こうしたプロセスを通して、専門職と利用者との間で、力のバランスがより対等になること

サービス提供者と利用者の関係を整理する枠組みとして、以下の三つのモデルがあります:

  1. 専門家モデル(Expert Model):専門家が主導し、利用者は受け身の存在
  2. 委嘱モデル(Entrust Model):専門家が情報提供しつつ、ある程度の選択を許す
  3. コンシューマーモデル(Consumer Model):利用者が主体となり、専門家はサポート役に徹する

この「コンシューマーモデル」は、盲導犬ユーザーの立場にも大きな意味を持ちます。私たちはただ犬を使わせてもらう存在ではなく、自ら選び、情報を得て、安全で自立した生活を築くために盲導犬と歩くのです。

また、国際補助犬学会においても、ユーザーが「コンシューマーの意識」を持つことが求められ、盲導犬の安全性やユーザビリティを評価する姿勢が推奨されています。その背景には、利用者自身がサービスの質を見極め、共により良い仕組みをつくっていくという視点があります。

これらの考えに触れたとき、私は「これこそが目指すべき姿だ」と強く感じました。

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